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贈る言葉~むかし青年だった私の主張~

2021年04月14日

このコラムでは私がニュースのプロとして目にした様々な出来事から
「感じる」ことを取り上げ、人間の真相にあるものを「読み」、
そして人生を信じることの意味を「考える」ことを綴っていきたいと思います。

春は学校、職場、住まい、あらゆる場所で「別れ」
そして新たな「出会い」があります。

多くの人はこの時期になると百人百色のセピア色の思い出が、
世代毎の歌謡曲と重なることでしょう。

若者がどこまで昔を覚えているのかは正直疑わしいのですが、
祝辞を述べる校長先生や経営者たちが
必死に若者の心に刺さることを考えていることは、
毎年この時期、メディアに届く
たくさんの経営者の入社式での式辞を見ると分かります。

ある経営者は
「ジムで若い姿を見ると嫉妬して負けるものかとバイクを全力で漕いだ。
君たちに負けたくないと必死なんだ」という本音を吐露し、
強烈なカウンターパンチとなるメッセージを発しました。

春が来ることは実は年を取ることでもあり、
それは人としての必然。

前述の経営者の式辞は「俺も若い人たちに負けないよ」
という激励のメッセージだとは理解をしつつ、
どこか年を重ねるのが怖い本音でもあるなと受け止めていました。

「年齢を重ねること」に向き合う言葉は他にも出会いました。

斉藤由貴さんの「卒業」の作詞者であり、数々の名作を送り出してきた
作詞家・松本隆さんが、サッポロビールの黒ラベル製品発表会で発表した
「年を取るからと言って、何も失われるわけではない」というキャッチコピーは、
年を重ねる不安を打ち消そう、肯定して受け止めようという言葉でした。

大人はみな必死に春を重ねているのだと思います。

さて、私も新入社員研修講師の登壇を控え、
何を若い人に伝えればいいのか最近よく思案しています。

今回は社員教育ではなく、人生の先輩として若い人に何を伝えればいいのか、
日々ニュースと向き合ってきた経験から、
もう少し大きな視点で自分の考えを紹介したいと思っています。

今年の新入社員は大卒なら1998年、1999年あたりの生まれです。
私が既に会社に入っていた頃に生まれた世代ということがまず衝撃ですが、
この若者たちを見て不安に思うのは「選挙の投票率が低い」ということです。

平成29年の衆議院選挙で60代の72.04%が投票したのに対し、20代は33.85%でした。
実に半分以下なのです。

投票行動以上に街頭演説に行ったり選挙を手伝ったりする積極的な政治参加となると
より高齢者の比率が高いことは、議員取材の経験でも間違いないと思います。

このように高齢者ばかりが政治参加をすることから、高齢者の声が優先的に反映されていく
「シルバーデモクラシー」と呼ばれる現象を私は懸念しています。

島澤諭著『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)では、
これを「シルバーファースト現象」と定義し、

「政治が、再分配の規模と期待できる得票数を世代別に比較衡量した上で、
シルバー優遇政治を選択すること」と定義しています。

日本の社会保障は「胴上げ型」といわれ多くの若者で少ない高齢者を支えた時代から、
「騎馬戦」といわれる3人で1人の高齢者を支える時代を迎え、近く「肩車」、
つまりは1人の現役世代が1人の高齢者を支える時代を迎えようとしています。

「社会保障費」を抑制しながら、限られた財源を若い人が活躍出来る政策に振り分けられるかは、
若い人の声にかかっています。

いたずらに政治不信を植え付けるのではなく、
「未来を考える責任」が有権者一人一人にあるのだと伝えることは
メディアや教育の重要な役割だと思っています。

同時に声高に「投票に行け」と叫ぶだけでは意味がありません。
もっと小さな時期から政治参加の意義を体験しておくことが必要です。

私は先日訪問した「キッザニア」に解決策があると感じています。
正直訪問するまでは遊園地のような場なのだろうと想像していましたが、とんでもない勘違いでした。
お金をどう稼ぎ、お金をどう貯めるのかという経験が出来る素晴らしく実践的な教育施設でした。

このような小さなバーチャル社会で政治参加し、
政策立案を体験する公共的なキッズワールドを作り出す。

パークでなくとも、バーチャルゲームでもいいと思うのです。
若い人達が声を上げて発信する疑似体験を小さな時から積み重ねる
「場」を自治体や企業も提供出来るのではないでしょうか。

今年は必ず総選挙があります。解散時期は諸説ありますが、
おそらくその前に国政の「流れ」を示すといわれる東京都議選が夏に控えています。

日本人が語ることが苦手だとされる「政治」に正面から向き合い、
若い人に伝えることをする時が来ています。

国の代表も、若者に選挙権を持つ責任について
熱い「式辞」を送るべきと思います。

冒頭、歳を取ることは必然と述べました。
諸行無常の世の中だからこそ、若い人もいずれ年を重ねて年配者になります。

仏教には「中道(中庸)」という言葉があります。
つまり、今の若者達がいつか来る自分の齢と住む社会を考慮して、
シルバー世代との政治関与のアンバランスさを危惧できるかどうか。

そのためにも、私は若い人の声がもっと反映される社会にすべきと思うのです。
(文・大野伸/報道番組 統括プロデューサー)


大野伸(おおの・しん)
日本テレビ放送網(株)報道局にて夕方のニュース番組「news every.」の統括プロデューサーを2018年12月から担当。1996年日本テレビ入社し、報道局社会部で警視庁を担当するなど記者業務に従事。2003年経済部に異動し財務省や経産省を担当。谷垣禎一財務大臣や竹中平蔵郵政民営化担当大臣の番記者を担当。ダイエーや三菱自動車の経営再建取材など民間企業の取材も行う。2008年からは経済部デスクとして多数の企業再建取材の陣頭指揮を行い、ニュース番組での解説者やラジオ番組でのコメンテーターとして解説の現場にも立った。2016年から2018年まで報道局「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサーを務める。最終学歴は早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了。公共経営修士号を取得。現在も早稲田大学パブリックサービス研究所で研究員を務め、政策コミュニケーションを研究している。本業の合間に企業などでの講演も多数。散歩途中に都心のお寺を巡り歴史に触れること、お寺の清らかな空気に心を癒やされることが趣味。

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