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女川から学ぶ、仏(神)対応

2021年03月05日

東日本大震災

このコラムでは私がニュースのプロとして目にした様々な出来事から
「感じる」ことを取り上げ、人間の真相にあるものを「読み」、
そして人生を信じることの意味を「考える」ことを綴っていきたいと思います。

3.11、「東日本大震災」――その名前の通り東日本全域で起こった大きな揺れ。
その後、首都圏を含めて生活への影響は長く続き、まもなく10年を迎えようとしています。
2011年3月11日14時46分に何をしていたのか、
今でも鮮明に記憶している人が多いことでしょう。

私は、3月11日とは、大震災を忘れず、
次の災害を意識して備えることを教訓にする日だと思います。

さらにこの10年は振り返ればそれなりに長くもあり、
読者の方お一人お一人には、予想もしなかった10年があることでしょう。

私はこの10年、定期的に東北の被災地を取材してきました。
10年の節目に改めて今後の教訓とするために考えた事をお伝えしたいと思います。

東日本大震災

災害当日からしばらくして私が入った被災地は女川町(おながわちょう)でした。
町のホームページによると女川を襲った津波は最大14.8メートル。
ビルをもなぎ倒し、死者574名を出しました。
実に人口の5.7%に当たる方が亡くなられた計算になります。
その中で私が取材をしたのは東北電力が運営する「女川原子力発電所」でした。

東北電力の渡部孝男所長(当時)に取材をしたところ、
女川町では住民の多くが家を流され、40人を超える住民達が
雪の降る中ずぶ濡れで避難場所を求め、女川原発に集まって来たそうです。

当時は原子炉を冷却している真っ最中で、
女川原発2号機の地下は浸水をしている状況でした。

本来、原発施設に許可無く外部関係者を入れることは
テロ対策などの理由から、法令で禁じられています。

しかし、所長は所管官庁との連絡もつかない混乱の中で
「全責任を負い、原発を支えてきた地域の人命を最優先し、受け入れを決断した」
とのことでした。

仏教には「対機説法(たいきせっぽう)という言葉があります。
対機説法とはお釈迦様がとられた手法で、「相手に応じて法を説く」こと。

人は誰も、独自の存在ですから皆同じではありません。
つまり、状況に応じた対応が必要だということです。

有事においても同じで、その時、その場に適した判断が必要になるでしょう。
まさしく、所長は3.11の渦中で、「その時、その場」を考え英断を下したのです。

このあまり知られていない話の裏には、
東京電力福島第一原子力発電所が全ての電源を喪失して
冷却機能を失うという大惨事を受け、
世の中の原子力発電所を見る目が厳しかったことから
積極的に話しにくかったこともあるでしょう。

しかし、実際に東北電力女川原子力発電所は冷温停止状態を維持しました。
福島第一原発で想定された津波の高さは最大で5.7メートル。
地盤面(敷地)の高さは10メートルで設計されていました。

これに対して東北電力では女川が立地する南三陸地域で
過去最大の津波が8メートルだったのに対し、
入念に9.1メートルを想定して、さらに6メートル高く見積もり、
地盤面の高さは14.8メートルで設計されていました。
実際に東日本大震災では、どちらにも13メートルから14メートルの津波が押し寄せています。

渡部所長は、「当然コストは高くなりますが、
当時意見を伺った専門家が、津波の多い地域だから
慎重に入念に備えた方がいいと強く具申し、
それを当時の経営陣も受け入れたと聞いています」
と経緯を話しました。

東日本大震災

歴史から謙虚に学び法令以上の慎重な対応で備えるも、
想定を超える災害が起きた際には超法規的な判断で
人命を最優先した東北電力の姿勢が、電力会社という巨大組織の中で
官僚的な判断にならなかったことは、私は有事対応として極めて
冷静かつクレバーに先を見越した判断だったと思います。
この鉄則はあらゆる危機管理にも対応出来るものです。

東日本大震災から10年、今一度私たちの有事への備え、
そして自分自身を振り返りたいものです。
3月11日はこんなことを考えながら、
亡くなった方々のご冥福を祈る日にしたいと思います。
(文・大野伸/報道番組 統括プロデューサー)


大野伸(おおの・しん)
日本テレビ放送網(株)報道局にて夕方のニュース番組「news every.」の統括プロデューサーを2018年12月から担当。1996年日本テレビ入社し、報道局社会部で警視庁を担当するなど記者業務に従事。2003年経済部に異動し財務省や経産省を担当。谷垣禎一財務大臣や竹中平蔵郵政民営化担当大臣の番記者を担当。ダイエーや三菱自動車の経営再建取材など民間企業の取材も行う。2008年からは経済部デスクとして多数の企業再建取材の陣頭指揮を行い、ニュース番組での解説者やラジオ番組でのコメンテーターとして解説の現場にも立った。2016年から2018年まで報道局「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサーを務める。最終学歴は早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了。公共経営修士号を取得。現在も早稲田大学パブリックサービス研究所で研究員を務め、政策コミュニケーションを研究している。本業の合間に企業などでの講演も多数。散歩途中に都心のお寺を巡り歴史に触れること、お寺の清らかな空気に心を癒やされることが趣味。

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