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パラリンピック感動への恩返しを

2021年11月02日

のびのび作業所フーズ

東京オリパラ大会では障がいのあるアスリートたちの
タフな勝負をテレビで応援された方も多かったことでしょう。
健常者でも達成出来ない選手達の華麗な記録には目を見張るばかりでした。

そして、障がいは誰もが突然の病気や事故で向き合う可能性があることも
選手達のストーリーを知ることでよく分かりました。

この運命をどう受け入れ、社会の中で輝くことが出来るのか。
つらい経験を攻めのエネルギーに転化させることは、決して簡単では無かったと察します。

私も2016年にブラジル・リオデジャネイロでのパラリンピックに出張して以来、
障がいがある方々一人一人が元気になれるような支援をしたいという気持ちが芽生えていました。

そんな時に長くお世話になっている大先輩の紹介を受けて出会ったのが、
社会福祉法人・木下財団が支援している「sweet heart project」という活動で、
私もアドバイザーとして微力ながら協力をすることになりました。

このプロジェクトでは、美味しくて、たくさんのやさしさが詰まった
「心もからだもおいしいお菓子やコーヒー」を目標に掲げ、
お菓子作りを通じて障がい者の方々が働く喜びと生きがいを感じることが出来る社会を支援しようしています。

私も実際にプロジェクトに参加している福祉施設のひとつ、「のびのび作業所フーズ」さんを訪問し、
働く人々の様子を伝えることで多くの人の理解と支援につなげようと考え今回の原稿を執筆しました。

何よりも記者上がりというのは、現場を見なければ納得出来ない性分でもあり、
責任を持ってリアルな姿をお伝えしたいという思いもありました。

9月のある朝、作業所を訪問するとクッキーを焼くいい香りとともに、作業をされている障がい者の方々が
少し照れくさそうな表情で「おはようございます」と次々に挨拶をしてくれました。

しかし、同時に作業の手をとめて目を輝かせながら
丁寧に手順を説明する姿からは、仕事に取り組む自信を感じました。

この作業所は18歳から59歳までの「就労継続B」と呼ばれる、
自力で施設まで来ることが出来る18名が業務にあたっており、

午前中に1時間から1時間半を作業時間として1日に40袋から50袋の商品を、力を合わせて作るそうです。

 

作業は障がいの程度により、粉の量を計測する細かい作業を担う人から、
形を作り袋詰めする人まで役割を分けて進めています。

現場の責任者を務める保田雄司さんによると、心がデリケートな障がい者も少なくはなく、
誰かが不安定になるとそれに連鎖反応を起こして作業をできなくなってしまう日や、
扉の窓を割ってしまうなどのトラブルに発展することもあるそうで、
計画通りに作業が進まないときもあるそうです。

福祉団体と障がい者たちが二人三脚で日々乗り越えなければならない現実も存在しています。
お菓子作りという繊細な作業だからこそ、
デリケートな個性をプラスの面で活かせるのではと考えながら私は見守りました。

この作業所はお菓子の製造で採算はとれておらず、江東区の福祉支援により維持出来ているそうです。

お菓子の売り上げから障がい者の方がもらえる工賃は1時間100円程度ですが、
それでも自分で働いて得られるお金を一様に大事そうに受け取り、それが日々の誇りに繋がっています。

しかし、コロナ渦で福祉イベントは軒並み中止になり、
重要な販路をたたれているという厳しい状況に直撃しているほか、
SDGsの活動として会食の手土産やお茶菓子などに利用する企業からの注文も大幅に減っているのが現状です。

長引くコロナ渦はこんなところにも影を落としているのだと今回初めて知りました。

見学後に頂いたお菓子は、機械製作のものとは違う、素朴な手作りの温かみのある味でした。
このオンリーワンのお菓子に障がい者の方の個性が反映されているのです。

「のびのび作業所フーズ」さんのお菓子は江東区役所で販売されています。

また「sweet heart project」の責任者である東光篤子さんは、
テレビや雑誌で人気のパテシェ・遠藤泰介さんとコラボしたレシピを福祉施設に提案しています。

「同情ではなく、美味しいと心から感動してもらえる商品を生み出し、
障がい者のお菓子作りの価値を高めたい」と東光さんは語ります。

私が東光さんの言葉を聞いて思い返したのは、
「仏教では疑心暗鬼の心こそ害である」と説くことです。

一人一人が社会において懸命に生きていること、
それこそが「宝」であると私は「のびのび作業所フーズ」を訪問し、改めて感じました。

ここで紹介した商品は「sweet heart project」のホームページでも注文を受け付けています。
こうしたお菓子の購入はパラリンピック感動への恩返しにもつながる行動だと思っています。

 

みなさんもパラアスリートに圧倒されてだけではなく、障がい者の方の笑顔を応援する一歩を踏み出しませんか。


大野伸(おおの・しん)
日本テレビ放送網(株)報道局にて夕方のニュース番組「news every.」の統括プロデューサーを2018年12月から担当。1996年日本テレビ入社し、報道局社会部で警視庁を担当するなど記者業務に従事。2003年経済部に異動し財務省や経産省を担当。谷垣禎一財務大臣や竹中平蔵郵政民営化担当大臣の番記者を担当。ダイエーや三菱自動車の経営再建取材など民間企業の取材も行う。2008年からは経済部デスクとして多数の企業再建取材の陣頭指揮を行い、ニュース番組での解説者やラジオ番組でのコメンテーターとして解説の現場にも立った。2016年から2018年まで報道局「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサーを務める。最終学歴は早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了。公共経営修士号を取得。現在も早稲田大学パブリックサービス研究所で研究員を務め、政策コミュニケーションを研究している。本業の合間に企業などでの講演も多数。散歩途中に都心のお寺を巡り歴史に触れること、お寺の清らかな空気に心を癒やされることが趣味。

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