わげんせ web 仏教とお寺と人を結ぶ情報サイト

読む感じる考える

回り道が力になる――助けてもらう勇気を持とう

2020年12月15日

画像はイメージです

画像はイメージです

このコラムでは私がニュースのプロとして
目にした様々な出来事から「感じる」ことを取り上げ、
人間の真相にあるものを「読み」、
そして人生を信じることの意味を「考える」ことを
綴っていきたいと思います。

報道の仕事をしていると、実に多くの人々と会う機会があります。
百人百色、様々なその相手の人生と向き合うことも時にあるのです。

今回は「オウム真理教」に入信していた
ある女子大生について話をしたいと思います。

これは地下鉄サリン事件で多くの幹部が逮捕され、
既に教団の持つ凶悪性が明らかになっていた1998年の話です。

当時、駆け出しの記者であった私は
凶悪性について報道されているにもかかわらず
オウム真理教が復活の兆しを見せていることに
問題意識を持ち取材していました。

その時に出会ったのが、当時19歳だったある女子大生です。

私の興味は、
「凶悪な事件を引き起こした集団になぜ若者が入信したのか?」
ということでした。

報道記者というのは関心がある「現場」で張り込みを行い、
関係者から話を聞き、真相を探ろうと取材します。

私は当時、池袋郊外にあったオウム真理教の
「道場」と呼ばれている施設から出てくる信者たちを張り込み、
中で何が行われているのか、
地下鉄サリン事件をどう思っているのか取材を試みました。

道場から出てくる信者の中には若者の姿も多く見られ、
彼女はその中のひとりでした。

黒髪でやや地味な服装をしていた彼女は
東北のとある県から上京し、ヨガに興味があったことから
この道場の門を叩いたということでした。

そして、報道されている内容を知らずに
気軽な動機で入信したことが取材で明らかになりました。

大学で友人がほとんど出来ないという彼女は
「家族のように温かい仲間に出会えたから楽しい」と目を輝かせていました。

私はそれを聞いて「サークル感覚か」と感じたことを記憶しています。

私はこの「取材対象者」の女子大生と連絡をとれるよう
携帯番号を交換して、何度か組織内部の状況に関して取材を続けていましたが
私が担当を離れ、その後は疎遠になっていました。

5年ほどの月日が過ぎたある日、見知らぬ番号から着信がありました。

仕事柄あらゆる電話がかかってくるので躊躇(ちゅうちょ)なく電話に出ると、
かつての「取材対象者」である彼女だったのです。

まず「まだ続けているの?」と確認をしたところ、
「もう辞めました!」という答えが返ってきました。

「今は何をしているの?」と質問を続けると
「普通にOLをしています」というのです。

私は「普通」に元気でいてくれることがうれしくて
「良かったね、本当に良かった!」と涙があふれました。

詳しく話を聞いていくと、理不尽な要求を受けたことから
組織に矛盾を感じ、入信から1年ほどで脱退したそうです。

大学では友達もでき、1年余計に通ったものの
就職活動もクリア出来たということでした。

その後、時折彼女から人生相談を受けるようになりました。
今では結婚し、お子さんも生まれたそうです。

このコラムを書くために神奈川県のある町で
久々に彼女と再会しました。

ご主人は彼女の素晴らしい理解者で、過去を知りつつも
「人にはいろいろな過去があります。
苦しんだ分だけ学びがあるだろうと
プラスに受け止めています」とおっしゃっていました。

お子さんはまだ小さいものの、
いずれ機会があれば隠さずに話をするだろうということです。

親が苦しいことや回り道をしたことも子供に真摯に伝え、
学ばせようという姿に私は心を打たれました。

思い返してみれば、私も身近な人生の先輩である
大人たちの声が大きな支えになりました。

若者は人と違っていることを恐れたり、
孤立することに過敏な生き物です。

それでも人に言えないたくさんの悩みや
コンプレックスを抱えながら成長し、克服してゆくのです。

優等生ではあるけれど、繊細だった私に対して、
ソフトボールを指導しているおじさんの言葉が
今でも記憶に残っています。

「大野君、男の子は優しいだけじゃ駄目なんだよ」

時には戦えよ、時には強くなれよ、
そんなメッセージが込められていることを
子供なりに感じることが出来る一言で、今でも忘れられません。

あなたは悩んだ時、孤独を感じた時に
安心して助けを求めに行ける場所がありますか?
(文・大野伸/報道番組 統括プロデューサー)


大野伸(おおの・しん)
日本テレビ放送網(株)報道局にて夕方のニュース番組「news every.」の統括プロデューサーを2018年12月から担当。1996年日本テレビ入社し、報道局社会部で警視庁を担当するなど記者業務に従事。2003年経済部に異動し財務省や経産省を担当。谷垣禎一財務大臣や竹中平蔵郵政民営化担当大臣の番記者を担当。ダイエーや三菱自動車の経営再建取材など民間企業の取材も行う。2008年からは経済部デスクとして多数の企業再建取材の陣頭指揮を行い、ニュース番組での解説者やラジオ番組でのコメンテーターとして解説の現場にも立った。2016年から2018年まで報道局「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサーを務める。最終学歴は早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了。公共経営修士号を取得。現在も早稲田大学パブリックサービス研究所で研究員を務め、政策コミュニケーションを研究している。本業の合間に企業などでの講演も多数。散歩途中に都心のお寺を巡り歴史に触れること、お寺の清らかな空気に心を癒やされることが趣味。

pagetop